「海外でも特許を取りたいが、どの国に出すかまだ決められない」――技術開発を進めながら海外展開を検討している企業様から、よくいただくご相談です。この悩みに応えるのがPCT国際出願です。ただし「PCT出願をすれば世界中で特許が取れる」という理解は誤りで、実際には優先日から30か月の「国内移行」期限が最大の山場になります。この記事では、PCTの仕組み・費用の内訳・タイムラインと、期限を落とさないための実務ポイントを整理します。

PCT国際出願とは何か(そして何ではないか)

PCT(特許協力条約)に基づく国際出願は、1通の出願書類を提出することで、PCT加盟国において同じ日に出願したものとして扱ってもらえる制度です。日本の特許庁を受理官庁として、日本語で出願することができます。加盟国は150か国以上に及びます。

ここが誤解されやすい点:PCT出願は「国際特許」という単一の権利を与える制度ではありません。PCTが確保するのは「出願日」であり、特許を与えるかどうかを判断するのは各国の特許庁です。権利を得るには、権利化したい国ごとに「国内移行」の手続をとり、その国の審査を受ける必要があります。

言い換えれば、PCTは「どの国に出すかを決める判断を、最大で優先日から2年半ほど先送りできる制度」です。市場性や技術の完成度を見極めながら国を絞り込めることが、最大のメリットになります。

PCTルートと各国直接出願(パリルート)の違い

海外で特許を取る方法は、大きく2つのルートに分かれます。

PCT国際出願各国直接出願(パリルート)
出願先日本の特許庁(受理官庁)に1通各国の特許庁に個別に
国を決める時期国内移行時(優先日から原則30か月)まで先送り可能日本出願から12か月以内(優先権主張の期限)
翻訳の準備国内移行の段階で必要出願の段階で必要
向くケース複数国を視野に入れたい/国を見極めてから決めたい出願国が1〜2か国に決まっている/早く権利化したい

なお台湾のようにPCTに加盟していない国・地域は、直接出願(優先権主張)で対応します。PCTルートと直接出願ルートの併用も可能で、「主要国はPCT、台湾は直接出願」という設計は実務上よくとられます。

PCT出願のタイムライン:30か月までに何が起きるか

PCTの手続は、優先日(通常は日本の最初の出願日)を起点に進みます。代表的な流れは次のとおりです。

0か月日本に特許出願(この日が優先日になります)
〜12か月優先権を主張してPCT国際出願(または各国へ直接出願)
16か月前後国際調査報告・見解書が届く(先行技術と特許性の見通しが分かる)
18か月経過後国際公開(出願内容が世界に公開されます)
〜30か月国内移行手続(翻訳文の提出等)。国により31か月等の差があります

国際調査報告・見解書を「移行判断の材料」に使う

PCTルートの実務的な価値は、この期限の長さそのものよりも、国内移行を決める前に特許性の感触が得られることにあります。国際調査報告で近い先行技術が挙がれば、請求項を見直したうえで移行する、対象国を絞る、あるいは移行を見送るといった判断ができます。費用が本格的に発生する国内移行の前に、投資判断のための情報が手に入るという順序が、PCTの大きな利点です。

費用はどのように発生するか

外国特許出願の費用は、次の4つの要素の合計です。弊所ではお見積り段階で、この4点すべてを内訳まで開示しています。

① 当所手数料PCT出願・国内移行・中間対応など、手続ごとの金額
② 各国庁費用各国特許庁・WIPOへ支払う公的費用(国・請求項数などで変動)
③ 明細書の翻訳費対象言語と分量に基づく費用。移行国の数だけ必要になります
④ 現地代理人費用移行先の国ごとに必要となる現地代理人の手数料

費用は出願国数・技術分野・明細書の分量によって大きく変動するため、金額の目安を一律にお示しすることは適切ではありません。弊所では案件ごとに無料でお見積りを作成し、出願後に発生し得る中間対応(拒絶理由対応)や年金の費用の目安も事前にお伝えしています。翻訳料金の単価は料金ページに掲載しています。

PCTが割安になるかどうかの考え方

PCT出願そのものにも費用がかかるため、移行する国が少ないほど、パリルートのほうが総額を抑えやすくなります。一方、出願国が3か国以上になる場合や、国を絞り込む前に出願日を確保しておきたい場合は、PCTのほうが結果的に有利になるケースが多くなります。「PCTありき」でも「直接ありき」でもなく、国の組み合わせと判断時期で比較するのが実務的な考え方です。

費用を抑える3つの着眼点

1. 明細書の分量を意識する。翻訳費は分量に比例します。日本出願の段階から外国出願を見据えて明細書を作っておくと、翻訳・移行の総コストに効きます。
2. 請求項の数と構成を見直す。庁費用は請求項数に応じて増える国があります。国内移行時に各国の実務に合わせて整理するのが定石です。
3. 手数料の軽減制度を確認する。中小企業・個人などを対象に、国際出願関連の手数料の軽減が受けられる場合があります。適用の可否は要件次第ですので、事前にご相談ください。

30か月の期限で失敗しないための実務ポイント

「30か月」を国ごとに確認する

国内移行の期限は原則として優先日から30か月ですが、国により31か月等の差があります。「30か月」と一律に覚えていると、移行先の追加を検討した際に取り違えるおそれがあります。対象国が固まった段階で、国ごとの期限を一覧化して管理することをおすすめします。

翻訳のリードタイムを逆算する

移行手続で最も時間がかかるのは翻訳です。期限直前に複数国分の翻訳を同時に進めるのは、品質の面でもリスクがあります。権利範囲に影響する誤訳を避けるためにも、期限の数か月前から着手できるスケジュールを組むことが重要です。弊所では特許明細書の英日・日英翻訳も自所で対応しており、翻訳から移行・中間対応まで窓口ひとつで完結します。

期限を過ぎた場合の救済は限定的

国内移行の期限を過ぎると、原則としてその国での権利化はできなくなります。国によっては一定の要件を満たす場合に救済される制度もありますが、要件も判断も国ごとに異なり、確実な手段ではありません。期限管理は「守るもの」であって「取り戻すもの」ではないという前提で運用してください。期限が迫っている場合も、選択肢が残っていることがありますので、あきらめずにご相談いただければと思います。

よくあるご質問

Q. PCT出願をすれば、世界中で特許が取れるのですか?
いいえ。PCT出願は「出願日を確保する」制度で、特許を与えるかどうかは各国の特許庁が判断します。権利を得るには、国内移行の手続を経て国ごとに審査を受ける必要があります。
Q. 国内移行の期限はいつまでですか?
原則として優先日(最初の出願日)から30か月です。ただし国により31か月等の差があるため、出願を検討している国ごとに個別の確認が必要です。
Q. 30か月の期限を過ぎてしまった場合はどうなりますか?
原則としてその国での権利化はできなくなります。国によっては一定の要件を満たす場合に救済される制度もありますが、要件も判断も国ごとに異なり確実ではありません。期限が迫っている場合も、あきらめずにお早めにご相談ください。
Q. PCTと各国直接出願(パリルート)はどちらが得ですか?
出願したい国の数、国を決める時期、ご予算によって変わります。3か国以上や、市場を見極めてから国を選びたい場合はPCTが有利なことが多く、1〜2か国で早期に権利化したい場合はパリルートが有利なケースもあります。弊所では必ず両ルートを比較してご提案します。
Q. まだ日本出願をしていなくても相談できますか?
可能です。外国出願を見据えた明細書づくりは最初の日本出願が肝心ですので、構想段階でのご相談も歓迎しています。

自社の場合、どのルートが適していますか?
発明の概要・出願したい国・日本出願の状況をお知らせいただければ、PCTと直接出願を比較したお見積りを無料で作成します。

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安達 友和
監修:安達 友和(あだち ともかず)
弁理士法人東海特許事務所 代表弁理士(登録番号18078)。特定侵害訴訟代理業務付記登録。一級知的財産管理技能士(ブランド専門業務)。国内外の商標・特許出願を多数取り扱い、PCT国際出願・各国直接出願の両ルートによる外国出願の権利化を得意とする。