「新しいブランド名が決まったので、すぐ商標出願したい」というご相談をいただいたとき、弊所がまずお勧めするのが商標調査(クリアランス調査)です。出願前に、同一・類似の商標が先に登録・出願されていないかを確認する作業です。地味な工程ですが、ここを飛ばしたために、印刷物や看板を作った後でブランド名を変えることになった――というケースは実際に少なくありません。

この記事では、商標調査の目的、無料データベース「J-PlatPat」を使った基本的な調べ方、自力の検索では見落としやすいポイント、そして海外展開を考えている場合の国別調査の考え方を整理します。

商標調査とは何をする作業か

商標調査とは、これから使う(出願する)商標について、①特許庁の審査で拒絶される可能性はどのくらいか、②すでに他人が持っている商標権を侵害するおそれはないか――この2点を、登録商標・出願中の商標のデータベースを使って事前に確認する作業です。

日本の商標制度は先願主義を採用しています。同一・類似の商標について複数の出願があった場合、原則として先に出願した者が登録を受けます(商標法4条1項11号、8条)。長く使ってきた名称であっても、他人が先に登録していれば、その商標を登録できないだけでなく、使用そのものを止めなければならない可能性もあります。

調査の目的は「登録できるか」だけではありません。すでに他人の登録商標がある場合、こちらが出願をしていなくても、使い続けること自体が商標権侵害となるおそれがあります。調査は「出願のため」ではなく「安心して使うため」の作業です。

調査をせずに出願すると何が起きるか

調査を省略した場合に想定される主なリスクは次の3つです。

① 拒絶理由通知への対応費用類似する先行商標が引用されると、意見書・補正書の作成が必要になり、当初の見込みより費用と期間がかかります。反論しても登録に至らないこともあります。
② ブランド変更のコストパッケージ・看板・Webサイト・名刺・ドメインなどを作り込んだ後で名称を変えることになると、出願費用とは比較にならない損失が生じます。
③ 侵害を指摘されるリスク他人の登録商標と類似していた場合、使用の中止や損害賠償を求められる可能性があります。事業規模が大きくなってから発覚するほど影響が大きくなります。

商標調査の費用は、これらのリスクに比べれば小さな金額です。弊所の国内商標調査の手数料は1区分あたり10,000円(税別)で、出願手数料や特許庁の印紙代とあわせた目安は料金ページに掲載しています。

J-PlatPatを使った基本的な調べ方

特許庁・INPIT(独立行政法人 工業所有権情報・研修館)が提供する無料データベース「J-PlatPat(特許情報プラットフォーム)」を使えば、誰でも登録商標・出願中の商標を検索できます。まずはご自身で当たりをつける段階として、次の手順が基本です。

  1. 商標検索の画面を開く:「商標」メニューから「商標検索」を選びます。
  2. 検索したい文字を入力する:商標の文字(例:ブランド名)を入力します。カタカナ・ひらがな・アルファベットは、それぞれ結果が変わることがあるため、表記を変えて複数回検索します。
  3. 読み方(称呼)でも検索する:文字が違っても読み方が同じ・似ている商標は類似と判断される可能性があります。「称呼(類似検索)」を使い、読み方ベースでも確認します。
  4. 区分(商品・役務)で絞り込む:商標は、指定した商品・サービスの範囲でのみ効力を持ちます。自社の事業に対応する区分・類似群コードで絞り込みます。
  5. ヒットした商標の内容を確認する:登録・出願中の状態、権利者、指定商品・役務の記載、存続期間満了日などを個別に確認します。

この段階で、自社が使いたい名称とまったく同じ商標が同じ分野で登録されていることが分かれば、その時点でネーミングを見直す判断ができます。それだけでも調査の価値は十分にあります。

自力の検索では判断が難しい3つのポイント

1. 「似ている」の判断基準

商標の類似は、外観(見た目)・称呼(読み方)・観念(意味)の3要素を総合して判断されます。文字列が一致しなくても、読み方が共通していれば類似と判断されることがあり、逆に読みが似ていても意味の違いから非類似とされる場合もあります。この判断は、特許庁の審査基準や過去の審決・裁判例の蓄積を踏まえて行う必要があり、検索結果の一覧を見ただけで結論を出すのは難しい部分です。

2. 区分・指定商品の設計

商標は45の区分に分かれた商品・役務を指定して出願します。どの区分をどこまで指定するかによって、抵触する先行商標も、必要な費用も変わります。実際に使う商品だけを指定して費用を抑えるのか、将来の事業拡大を見込んで広めに取るのか。ここは調査結果と事業計画を突き合わせて設計する部分で、調査と区分設計はセットで考えるのが実務です。

3. 検索では出てこない拒絶理由

先行商標との類似(4条1項11号)以外にも、拒絶理由は複数あります。たとえば、商品の品質・産地・用途などを普通に表示したにすぎない名称や、ありふれた氏・名称は、識別力がないとして登録が認められないことがあります(3条1項各号)。また、登録されていなくても他人の周知・著名な商標と紛らわしい場合には別の拒絶理由に当たり得ますし、不正競争防止法上の問題が生じることもあります。これらはデータベース検索では拾えません。

弁理士による調査で確認しているのは、検索でヒットした先行商標との類似性の評価、識別力の有無、区分・指定商品の適切な設計、想定される拒絶理由と反論の見通し、そして出願以外の選択肢(ネーミングの調整・図形商標化など)です。

海外展開を考えているなら「国ごとの調査」が必要

商標権は国ごとに独立しています(属地主義)。日本のJ-PlatPatで問題がなかったことは、海外で使えることを何ら意味しません。海外での商標調査には、日本国内とは異なる次のような論点があります。

どの国をどの範囲まで調査するかは、進出計画と予算のバランスで決まります。「まず主要進出国だけ調査し、順次広げる」という進め方も現実的です。国別の出願費用の概算は外国商標かんたん見積ツールでご確認いただけます。

調査から出願までの進め方

弊所での一般的な流れは次のとおりです。

1. ヒアリング使いたい商標(文字・ロゴ)、対象となる商品・サービス、進出予定国、使用開始の予定時期をお聞かせいただきます。
2. 区分の検討事業内容に対応する区分・指定商品役務の候補を整理します。
3. 調査・報告先行商標を調査し、登録の可能性と留意点をご報告します。リスクが高い場合は代替案もあわせてご提示します。
4. 出願調査結果を踏まえて願書を作成し、出願します。以降の審査対応・期限管理も弊所で行います。

調査から報告までの期間は、対象国数・区分数・商標の性質によって変わります。使用開始や展示会出展の予定が決まっている場合は、その日程を最初にお伝えいただければ、逆算したスケジュールをご提案します。手続全体の流れは手続きの流れもあわせてご覧ください。

よくあるご質問

Q. 商標調査は必ずしなければいけないのですか?
法律上の義務ではありません。ただし調査をせずに出願すると、拒絶理由通知への対応費用が追加で発生したり、すでに商品パッケージや看板に投資した後でブランド名の変更が必要になったりする可能性があります。事前の調査は、こうしたリスクを事前に把握するための手段としてお勧めしています。
Q. J-PlatPatで同じ商標が見つからなければ登録できますか?
同一の商標がないことは前提条件のひとつですが、それだけでは判断できません。読み方(称呼)や意味(観念)が似ている商標、指定商品・役務が類似する範囲の商標も審査の対象になります。また識別力の有無など、検索では出てこない論点もあります。
Q. 海外でも日本と同じように調査が必要ですか?
商標権は国ごとに独立しているため(属地主義)、日本の調査結果は海外では通用しません。進出予定国ごとに、その国の登録商標データベースで調査を行う必要があります。マドプロを利用する場合も各国の審査を受けるため、指定国ごとの調査が有効です。
Q. 調査の結果、リスクが高いと分かった場合はどうなりますか?
ネーミングの一部変更、指定商品・役務の範囲の調整、ロゴを含めた図形商標としての出願など、いくつかの選択肢を検討します。リスクを承知の上で出願する判断もあり得ますので、想定される拒絶理由と対応の見通しをご説明したうえでご相談しながら決めていきます。

そのブランド名、出願前に一度ご相談ください。
国内の調査から、海外展開を見据えた国別の調査・出願まで対応しています。

安達 友和
監修:安達 友和(あだち ともかず)
弁理士法人東海特許事務所 代表弁理士(登録番号18078)。特定侵害訴訟代理業務付記登録。一級知的財産管理技能士(ブランド専門業務)。国内外の商標・特許出願を多数取り扱い、マドプロ・各国直接出願の両ルートによる外国商標の権利化を得意とする。