「海外進出はまだ先の話だから、商標は日本だけで十分」——そう考えているうちに、中国で自社のブランド名を第三者に先に出願されてしまうケースが後を絶ちません。これがいわゆる「冒認出願」です。この記事では、中国で冒認出願が起きる理由と、被害に遭った場合の対抗手段、そして最も効果的な予防策である早期出願のポイントを弁理士が解説します。

冒認出願とは何か

中国商標には、他人の商標を無断で先に出願する「冒認出願」と呼ばれる問題が根強く存在します。中国は「先に出願した者が権利を取得する」先願主義を採用しており、日本での知名度や使用実績は原則として考慮されません。実際に、日本で長年使われてきたブランド名や、まだ中国進出前の企業名・商品名が、現地の第三者や競合他社に先回りで出願されてしまう例が多数報告されています。

なぜ中国で冒認出願が起きやすいのか

背景には、次のような事情があります。

先願主義出願の先後のみで権利者が決まり、使用実績や知名度は原則考慮されない。
中国語表記の存在日本語ブランドの中国語表記(漢字・ピンイン)が、本人の知らないうちに第三者に出願される。
情報の先行公開展示会出展・商談・SNS発信などをきっかけに、ブランド名が中国国内で先に知られてしまう。
先取り目的の出願者他社の商標を見越して出願し、後から買い取りを持ちかけることを目的とした出願者も一定数存在する。

特に、越境ECやOEM生産をきっかけに中国国内での認知が先行してしまうケースには注意が必要です。取引先や現地パートナーとの商談段階でブランド名や商品情報を伝えた直後に、第三者による出願が確認されるという相談も少なくありません。「まだ正式に進出していないから大丈夫」という判断が、結果的に冒認出願のリスクを高めてしまうことがあります。

冒認出願の被害に遭うとどうなるか

1. ブランド名を中国国内で使用できなくなるおそれ

第三者が先に商標登録すると、たとえ自社が生み出したブランドであっても、中国国内でその名称を使った販売・広告ができなくなるおそれがあります。

2. 模倣品対策ができなくなる

中国税関へのIP登録や行政摘発による模倣品差止めには、自社名義の商標登録が前提となります。冒認出願を放置すると、模倣品への有効な対抗手段を失いかねません。

3. 越境EC・現地出店ができない

主要な越境ECモールへの出店には商標登録証の提出が求められることが一般的で、登録がなければ出店の前提条件を満たせません。

冒認出願への対抗手段——ただし時間とコストがかかる

すでに第三者に先取り出願されてしまった場合でも、次のような対抗手段があります。

異議申立て

出願が公告された後の一定期間内であれば、異議を申し立てることができます。

無効宣告請求

登録後であっても、一定の要件を満たせば無効を求める請求が可能です。

不使用取消請求

登録から一定期間、実際に使用されていない商標については、不使用を理由とした取消請求も選択肢になります。

これらの手続はいずれも審査・審理に相応の時間と費用がかかり、係争中は自社ブランドを使えない、あるいは相手方から買い取りを迫られるといった事態にもなりかねません。最も確実で低コストな対策は、被害に遭う前に自社で先に出願しておくことです。

最も有効な対策は「早期出願」

中国語(漢字・ピンイン)表記もあわせて出願

中国国内では日本語・英語表記ではなく中国語名称で呼ばれることが多く、中国語表記だけを第三者に先取りされる事例も少なくありません。日本語・英語の商標に加えて、中国語表記についても出願を検討することをおすすめします。

進出予定国はまとめて早めに確保

中国に限らず、将来的に進出可能性のある国については、実際の進出時期を待たず早めに商標を確保しておくことが、結果的に最も費用を抑える方法になります。マドプロ(マドリッド協定議定書)を利用する場合は、事後指定によって後から指定国を追加することもできます。

出願前の事前調査も欠かせない

早期出願とあわせて重要なのが、出願前の事前調査です。同一・類似の商標がすでに出願・登録されていないかを確認することで、無駄な出願費用や後々の拒絶理由通知を避けられます。また、すでに第三者が類似の商標を保有していることが分かった場合は、ネーミングの見直しや区分の調整など、早い段階で戦略を練り直すことも可能です。弊所では出願前の調査を通じて、登録の見込みをあらかじめご報告しています。

マドプロと中国直接出願、どちらを選ぶべきか

中国のみへの出願であれば、現地代理人を通じた直接出願の方が、費用・スピードの面で有利になるケースが少なくありません。一方、中国を含む複数国への展開を予定している場合は、マドプロ出願によって出願手続と更新管理を一元化できるメリットがあります。どちらが有利かは対象国の組み合わせによって変わるため、出願前に両ルートを比較検討することをおすすめします。弊所では中国商標登録の実績があり、進出予定国や区分数に応じて最適なルートをご提案しています。国・区分数ごとの費用の目安は、外国商標かんたん見積ツールでご確認いただけます。

冒認出願は、被害が発生してから対応するよりも、発生する前に手を打つ方が時間・費用の両面で圧倒的に有利です。「まだ具体的な進出計画はないが気になっている」という段階でも、まずは現状の調査から始めることをおすすめします。

よくあるご質問

Q. 日本ですでに商標登録していれば、中国でも保護されますか?
いいえ。商標権は国ごとに独立しており(属地主義)、日本での登録の効力は中国には及びません。中国で保護を受けるには、中国での商標登録が別途必要です。
Q. すでに第三者に先取り出願されていた場合、どうすればよいですか?
異議申立てや無効宣告請求、不使用取消請求などの対抗手段があります。ただしいずれも時間と費用がかかるため、まずは状況を確認したうえで最適な対応方針をご相談ください。
Q. 中国語(漢字)の商標も出願すべきですか?
強くおすすめします。現地では中国語名称で呼ばれることが多く、中国語表記を第三者に先取りされる事例が多発しています。ネーミングの段階からのご相談も可能です。
Q. マドプロ出願と中国直接出願はどちらがよいですか?
対象国の数や今後の展開予定によって最適解が異なります。中国のみであれば直接出願が有利なことも多く、ご相談時に両ルートの比較をご提示します。

自社のブランド、中国でまだ出願していませんか?
進出予定がまだ先でも、早期の出願確保が最も低コストな対策です。まずは無料の見積り・ご相談から。

安達 友和
監修:安達 友和(あだち ともかず)
弁理士法人東海特許事務所 代表弁理士(登録番号18078)。特定侵害訴訟代理業務付記登録。一級知的財産管理技能士(ブランド専門業務)。国内外の商標・特許出願を多数取り扱い、マドプロ・各国直接出願の両ルートによる外国商標の権利化を得意とする。