製品デザインは、ブランドの価値を最も分かりやすく伝える資産です。ところが「特許や商標は海外でも押さえているが、デザインは日本だけ」という企業様は少なくありません。デザインを模倣されたときに使える最も直接的な武器が意匠権であり、その海外展開を効率化する制度がハーグ協定に基づく国際意匠登録出願(ハーグ制度)です。この記事では、制度の仕組みと、実務上つまずきやすいポイントを整理します。
意匠権も国ごとに独立している
商標や特許と同様に、意匠権にも属地主義が適用されます。日本で意匠登録を受けても、その効力は日本国内にしか及びません。海外の工場で製造し、海外のECモールで販売するのであれば、製造国・販売国のそれぞれで権利を確保しておかなければ、現地で模倣品が出回っても差止めを求める根拠を持てないことになります。
近年は越境ECやSNS経由で製品写真が瞬時に世界へ拡散します。発売前の段階でどの国に権利を置くかを決めておくことが、意匠では特に重要です。意匠は原則として公知になる前に出願する必要があるため、後追いでの取得が難しい場面があるからです。
ハーグ制度とは
ハーグ協定(ジュネーブ改正協定)は、1つの国際出願手続で、複数の締約国に同時に意匠の保護を求められる制度です。出願はWIPO(世界知的所有権機関)の国際事務局に対して行い、日本国特許庁を経由して提出することもできます。日本は2015年5月13日に同協定の効力が発生し、以後、日本の企業・個人も利用できるようになりました。
国際事務局は方式審査を行ったうえで国際登録簿に登録し、国際公表を行います。その後、出願人が指定した各国の官庁が、それぞれの国内法に基づいて実体的な審査を行う――という二層構造が制度の骨格です。
商標のマドプロとの大きな違い
海外商標で用いるマドリッド協定議定書(マドプロ)とよく比較されますが、実務上重要な違いが2つあります。
| 基礎出願の要否 | マドプロは自国での基礎出願・基礎登録が必要。ハーグは基礎出願・基礎登録が不要で、いきなり国際出願ができます。 |
|---|---|
| セントラルアタック | マドプロには基礎出願が失効すると国際登録も影響を受ける仕組みがありますが、ハーグにはこれに相当する従属性の規定がありません。 |
この違いから、ハーグ制度は「日本での出願と海外での出願を切り離して設計できる」点に使い勝手のよさがあります。
ハーグ制度の主なメリット
1. 手続と管理の一元化
複数国に個別に出願する場合、国ごとに現地代理人を立て、国ごとの様式で書類を用意する必要があります。ハーグ制度では、原則として1通の願書・1つの言語・1回の手数料納付で複数国を指定できます。権利の更新や名義変更・住所変更も国際登録簿への一括手続で対応できるため、権利が増えるほど管理コストの差が効いてきます。
2. 複数のデザインをまとめて出願できる
ハーグ制度では、一定の要件のもとで複数の意匠を1つの国際出願に含めることができます。シリーズ製品やバリエーション展開のあるデザインを扱う企業にとっては、この点が実務上の大きな利点になります。ただし、複数意匠の取扱いは指定国の国内法によって制限されることがあり、国によっては分割等の対応を求められる場合があります。
3. 後から国を追加する余地がある
事業の進展に応じて保護対象国を広げたい場合、追加の指定を検討できます。もっとも、意匠は公知性の要件が厳しく、後から追加する国では新規性が失われていると判断されるリスクがあります。追加ありきの計画にせず、初期の指定国選定を丁寧に行うことをおすすめします。
実務で注意すべき4つのポイント
① 指定国ごとに審査の厳しさが違う
意匠の審査は、方式的な審査にとどまる国と、新規性・創作性まで踏み込んだ実体審査を行う国とに分かれます。日本・米国・韓国などは実体審査を行うため、ハーグ経由であっても拒絶の通報を受けることがあります。通報を受けた場合は、その国の言語・様式に従い、期間内に応答しなければなりません。「ハーグなら現地代理人が不要」というのは、拒絶が来ない限りにおいての話である点は押さえておく必要があります。
② 図面(意匠を表す図)の要件が国ごとに異なる
もっとも実務でつまずきやすいのがここです。図の数、破線の使い方、陰影や写真の可否、背景の処理などの要求は国によって差があり、ある国では問題のない図面が別の国では補正を求められることがあります。指定国を決めてから、その国の要件を同時に満たす図面を設計するという順序が重要です。国際出願後の図面の追加・変更は原則として認められないため、出願前の作り込みが結果を大きく左右します。
③ 国際公表の延期は国によって扱いが違う
発売前のデザインを先に出願しつつ、公表は発売時期に合わせたい、というニーズは多くあります。ハーグ制度には国際公表の延期を請求できる仕組みがありますが、認められる期間は締約国の宣言によって異なり、延期を認めていない国も存在します。延期を認めない国を1か国でも指定すると、戦略全体に影響が及ぶため、事前の確認が欠かせません。
④ 更新期間と権利期間の関係
国際登録の存続期間は5年単位で、更新を重ねていく設計です。ただし、各国で意匠権として存続できる期間の上限は、その国の法令によって定まります。日本の意匠権の存続期間は出願日から25年です(令和元年改正法の施行後に出願されたもの)。「国際登録が続いている=すべての指定国で権利が続いている」とは限らない点に注意が必要です。
ハーグと各国直接出願、どちらを選ぶか
判断の軸はシンプルで、指定国の数と各国での権利の作り込みの必要性です。
| ハーグが向くケース | 3か国以上を同時に押さえたい/シリーズ製品を一括で出願したい/権利の更新・名義管理を一元化したい |
|---|---|
| 直接出願が向くケース | 特定の1〜2か国に絞る/その国の実務に合わせて図面や部分意匠を作り込みたい/その国特有の制度を積極的に活用したい |
費用面では、指定国が増えるほどハーグの相対的な優位が出やすい傾向がありますが、拒絶通報を受けた国では結局その国の代理人費用が発生します。「拒絶が出た場合の費用」まで含めて比較するのが、後から想定外の出費に驚かないためのコツです。弊所では、ご相談時に両ルートの比較と、拒絶が生じた場合の追加費用の目安を併せてご案内しています。
費用について
ハーグ出願の費用は、WIPOに納付する国際手数料(基本手数料・公表手数料・指定国ごとの手数料)と、弊所の手数料の合計になります。国際手数料はスイスフラン建てで、指定国・意匠の数・図の数によって変動し、為替の影響も受けます。金額は案件ごとに大きく変わるため、具体的なご計画をお伺いしたうえでお見積りをご提示します。意匠の料金は料金ページおよびお問い合わせからご確認ください。
なお、デザインを海外で守る際は、意匠だけでなくブランド名やロゴの商標登録も併せて検討されることをおすすめします。海外商標については外国商標かんたん見積ツールで、国と区分数を選ぶだけで概算費用をその場でご確認いただけます。
よくあるご質問
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