「米国で商標登録が完了したので、あとは10年後の更新まで何もしなくてよい」――そう思っていたら、数年後に登録が取り消されていた。米国商標では、こうした事態が実際に起こり得ます。原因は、日本にはない「登録後の使用宣誓書」という手続です。この記事では、使用宣誓書とは何か、いつ提出するのか、提出しないとどうなるのかを、実務の視点から整理します。
米国商標の大前提は「使用主義」
日本の商標制度は、原則として登録主義です。登録の時点で実際に使っていなくても権利は発生し、その後の使用状況を特許庁に報告する義務もありません(不使用取消審判で第三者から争われることはあります)。
これに対して米国は使用主義を基本とし、「商標は使ってこそ保護される」という考え方が制度の隅々まで貫かれています。出願段階で実際の使用または使用意思が問われるだけでなく、登録した後も、決められた時期に「使っています」と宣誓し、その証拠を提出しなければならないのが最大の違いです。この宣誓を怠ると、審査を通って手に入れた登録が失われてしまいます。
使用宣誓書(Declaration of Use)とは
使用宣誓書とは、登録商標を米国の商取引において現に使用していることを、権利者が米国特許商標庁(USPTO)に対して宣誓する書面です。米国商標法の条文番号から「セクション8宣誓書」と呼ばれることもあります。単に「使っています」と述べるだけでは足りず、次の3点がセットで必要になる点が実務上の要注意ポイントです。
- 宣誓の内容:登録に係る商品・サービスについて、米国内の商取引で使用していること
- 使用証拠(Specimen):区分ごとに、実際の使用状況が分かる資料
- 使用していない商品の削除:宣誓の対象から外す手続
提出時期のスケジュール
現行の米国制度では、使用宣誓書の提出時期はおおむね次のように定められています。起算日が「登録日」である点(出願日ではない点)に注意してください。
| 時期 | 必要となる手続 |
|---|---|
| 登録日から5年〜6年の間 | 使用宣誓書(セクション8)の提出。最初の関門であり、最も見落とされやすい期限です。 |
| 登録日から9年〜10年の間 | 使用宣誓書と更新申請をあわせて提出。 |
| 以後10年ごと | 同様に、使用宣誓書と更新申請をあわせて提出。 |
いずれの期限にも、経過後に追加費用を納めて提出できる猶予期間が設けられていますが、猶予期間まで過ぎると登録は取り消されます。なお、一定期間継続して使用したことを宣誓することで、登録の有効性に関する主張を強める制度(不可争性の宣誓)もあり、実務では使用宣誓書と同時に検討します。
具体的な期限日・官庁費用・提出可能な猶予期間は制度改正や運用変更の対象となります。個別案件では必ず最新の運用と登録原簿を確認のうえ判断してください。
マドプロ経由で米国を指定した場合も必要です
「マドリッド協定議定書(マドプロ)で一括出願したから、管理はWIPOの国際登録だけで済む」というのは誤解です。米国が指定された場合、米国での保護を維持するには米国の維持手続が別途必要になります。つまり、国際登録の更新期限(国際登録日を基準)と、米国の使用宣誓期限(米国での保護の起算日を基準)という2系統の期限を並行して管理することになります。この二重管理を自社だけで行うと事故が起きやすいため、米国を含む案件では特に注意が必要です。
ルート選択の考え方については、海外商標登録の費用はいくら?マドプロと直接出願の違いもあわせてご覧ください。米国は登録後の維持手続まで含めて考えると、直接出願のほうが実務の流れがつかみやすいケースもあります。
提出しないとどうなるか
期限内(猶予期間を含む)に使用宣誓書を提出しなかった場合、その登録は取り消され、原則として元に戻すことはできません。同じブランドで権利を得ようとすれば、あらためて出願からやり直すことになります。その間に第三者が同一・類似の商標を出願していれば、審査で引用され、権利を取り戻せない可能性もあります。
また、取り消しに至らないまでも、使用証拠の不備を指摘されたり、登録した商品・サービスの実使用について追加の証明を求められたりする運用もあります。「登録さえ取れば安心」ではなく、登録後の維持まで含めた設計が米国では欠かせません。
実務でつまずきやすい3つのポイント
1. 使用証拠が「証拠にならない」
社内で作成したカタログ案、単なるロゴ画像、日本国内向けの資料などは、米国市場での使用を示す資料として不十分と判断されることがあります。商品であれば実際のパッケージやラベル、サービスであれば米国の顧客向けに公開されている広告やウェブページなど、「米国の需要者が実際に目にする形」の資料を、区分ごとに用意しておく必要があります。
2. 使っていない商品を残したまま宣誓してしまう
出願時に広めに指定した商品・サービスのうち、実際には使っていないものが残っているケースは珍しくありません。実態に合わない宣誓は、後に登録の有効性を争われる火種になります。宣誓のタイミングは、指定商品を実態に合わせて棚卸しする好機でもあります。
3. 連絡先が変わって通知が届かない
社名変更・本店移転・担当者の交代・代理人の変更などで、期限の通知が届かなくなる事故が起きます。権利者情報の変更手続と、期限管理の引き継ぎを確実に行ってください。
期限管理は「誰が」持つかを決めておく
米国の使用宣誓は、登録から5年以上先に到来する期限です。担当者の異動や事務所の変更をまたぐことが多く、管理主体があいまいなまま時間が経つことが最大のリスクといえます。弊所では、米国を含む外国商標について出願から登録後の維持手続までを一貫して期限管理し、提出時期が近づいた段階で使用証拠のご準備をご案内しています。米国直接出願の弊所手数料は海外商標サポートのページに記載のとおり110,000円〜(庁費用・現地代理人費用は別途)で、使用宣誓書のサポートを含みます。
すでに他事務所で取得された米国登録についても、期限の棚卸しからご相談を承ります。まずは登録番号と登録日が分かる資料をご用意のうえ、お問い合わせください。
よくあるご質問
米国を含む海外商標をご検討中ですか?
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